火車が出た。
火車は宵闇の中を彷徨い亡骸を奪い去る地獄からの使者だ。最近では獣に喰われる者が増えているから火車が現れたのだ。その証拠に亡骸が塵のように崩れ去るのを見た者が何人もいた。
人々は噂する。火車が出たのだ。亡骸を隠せ。さもなくば地獄に連れてゆかれるぞ。雨の降る日は特に注意しろ。亡骸に猫を近づかせるな。火車の正体は猫だというではないか。
太陽が沈み星星が瞬きを始めようとする時刻――昼と夜の境の逢魔刻にそれは現れる。耳をすませば猫の鳴き声が聞こえるだろう。その中心にいるのが“火車”に違いない。
恐ろしい地獄の使者、それが火車だ!
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