LOVE ME DO
ばか、ばか。
巌勝はそう口にしたつもりだった。
でも口から出たのは「あ」「あ」という意味をなさない言葉だった。
縁壱に接吻されたと思ったら、口の中を食べられた。それは初めてのことだった。驚いて仰け反って逃げようとすると、ごろんと押し倒されて色んな所を触られた。
擽ったいようなむずむずするような感覚はやがてピリピリ、ジンジンとした感覚に変わる。触れられたところから背筋にかけて電流が走り、巌勝は慌てて「待て」と言おうとした。しかしその声も食べられてしまった。
気が付けば縁壱の性器が巌勝の体を貫いていた。浅いところをぐぽぐぽと抜き差しされたり中の一等ビリビリと電流の走る部分を性器の先端の張り出た部分でごしごしと擦られたりしている内に、声が止まらなくなる。
変な声が出るのが嫌で両手で口を抑えると、縁壱から笑われる。それにムッとして手を離すと「可愛い」と言われた。全く嬉しくなくて足で蹴ってやった。縁壱は楽しそうだった。
「兄上、気持ちいいですね」と縁壱は言いながら汗をぽたぽた流している。
――――解らない。でも、これ以上は、駄目な気がする。そんな感覚。
そう思って伝えると「覚えてください。これが“気持ちいい”です」と笑われ、より深く性器が入り込む。奥に入ったまま軽く揺すられると頭に靄がかかりはじめ、ゆっくりと抜かれると内臓ごと引っ張り出されるようで、怖かった。声が止まらなくなり、口からみっともなく唾液が垂れる。
性器をギリギリまで抜きながら縁壱は「兄上の気持ちのいいところは全部知っている」と言って、また口を食べた。
不思議なことに最初は苦しいだけだった筈のこれが、頭の中に靄が広がる感覚が、恐ろしく気持ちよく感じられた。縁壱の言っていた“気持ちいい”が少しだけ解った。だから、口が解放された時に「気持ちよかった」と言った。
すると、縁壱は鳩が豆鉄砲を食ったような間抜け面を晒してから、ぎゅっと抱きしめ性器を勢いよく深い所まで侵入させる。
「――――っ?! や、あ、ぁああ!!」今までで一番情けない叫び声をあげてしまうが、そんなことを気にする余裕などなく眼の前の縁壱に縋り付く。
縁壱が何度も熱の塊を中で行ったり来たりさせ、その度に声が出てしまった。
激しく揺さぶられたせいで視界がゆらゆらしている。二つの目にぷっくりと張られた涙の膜のせいだと気づいたのは、縁壱に唇で涙を拭われたからだった。
「ね、ね、兄上。一緒に。一緒がいいです」
縁壱は熱に浮かされたように言い、とろとろと涙を流すが絶頂には至っていない巌勝の性器を苛め始めた。目の裏で火花が飛び散り腰がひとりでにガクガクと震える。
まるで熱湯の中で溺れているみたいだった。
“気持ちいい”は苦しくて、頭がおかしくなりそうで、怖かった。
「あにうえ、おれ、もう、もう――っ!」
縁壱がもうこれ以上ないほどに深く深く入り込んでくる。そしてぐりぐりと最奥を捏ねながら巌勝の性器の先に爪を立てた。
「―――――っっ!!」
息が止まり、びゅくびゅくと精が飛び散る。
そしてその瞬間に縁壱の性器を包む内壁が射精に導くようにうねり、縁壱はそれに抗わなかった。
はあはあと荒い息をしながら、縁壱は巌勝をキツく抱きしめ「『人を好くということは、愉しいことでございます』ね」と言った。
甘く、ドロリとしたものが身体中を蝕むのを感じる。
しくじったかもしれない。
巌勝はそう思ったが、今はとにかく冷たい水の中に戻りたかった。そうして泥のように眠ってから解毒の方法を考えても遅くはあるまい。
巌勝は幸せそうする縁壱の腕の中でゆっくりと意識を手放した。
惜しむらくは、そこが水槽の中ではなかったことだった。