Space and the Seabed
縁壱は宇宙飛行士になった。そして巌勝が夢見ていた宇宙に行った。
ふわふわと浮きながら、無重力だからって何処にでも行けるわけじゃないんですよ、と兄に毒づく。
外を見ると闇が広がっていた。海底みたいだと思った。
あれはヒトデ、あれはイソギンチャク、あれはクラゲ、あれは………。
指を指しながら縁壱が遊んでいると、向こうの方から彗星がひゅーんと流れた。
目を凝らすと、彗星の正体は巌勝だった。縁壱に手を振りながらまっすぐこちらにやってくる。
そして、窓に手をついて「本当にお前、ばかだなあ」と笑った。
巌勝は随分と伸びた髪の毛を頭の後ろで一括にしていた。ゆらゆらと揺らめく髪が尾びれのようで、きっと彼は深海魚にでもなってしまったのだと思う。
深海魚になって、海の底――宇宙に辿り着いたのだ。
縁壱は窓越しに巌勝の手に自分の手を合わせて破顔した。
「好きだから会いに来ました」
ざざ……ざざ……と波の音が聞こえた。
海底の宇宙に二人きり。
縁壱は幸せだった。