main(5000〜) NOVEL

sui

スイ

とうとう




(十二)  
 人里離れた山あいにあるサナトリウムは産屋敷病院と呼ばれている。  
 正しくは藤襲山サナトリウム病院という。

 その病院の敷地は藤に囲まれており、まるで塀のようだとも言われていた。不思議なことにその藤は一年中花を咲かせていたからだ。  
 近寄り難い神秘的なその木は月夜の晩にはざわざわと風もないのにざわめく。不気味だが、美しい。


 しかしある朝、一年中咲き乱れていた藤の花は時計の針を元に戻したかのように散っていった。  
 丁度その日は先々代の院長の養子となっていた男が死んだ日だった。


 その日より藤襲山サナトリウム病院の藤は五月になれば美しく咲き季節の移ろいを伝えるようになった。  
 藤を見た人々はその美しさに息を呑む。そして月夜の晩には一層その美しさは増し、見るものを魅了するのだという。
(4/4)(終)