NOVEL short(1000〜5000)

いついつ出やる


 継国巌勝が行方不明になった。
 行方不明になる数日前、彼はバイト仲間に興奮気味に彼の弟の話をしていたそうだ。あまり正気とは言えない彼の様子にバイト仲間は心配していたそうだ。
 同時に彼らは巌勝のオカルトじみた話から、やれ神隠しだ弟に監禁されているのだと噂話に花を咲かせる。継国巌勝という男はどこか浮世離れした男だった。それでいて彼らの中に自然と溶け込む。まったく不思議な青年であった。加えて、はっと目を引く見目をしているのだから、噂好きな彼らの格好のネタだったというわけだ。
 
 しかしそれもすぐに飽きられ、ひと月もすれば巌勝の話をする者はいなくなった。
 
 それから更にひと月が経ち、継国巌勝と同じ大学に通う男が「どうやら継国は退学したらしい」という噂を仕入れる。
 加えて、友人の一人にメッセージが届いたのだという。
 
 突然に姿を消してしまい申し訳ないという謝罪から始まり、今は縁壱と達者で暮らしているから何の不安もないという旨が簡潔に記されたメッセージだったそうだ。
 縁壱って誰だよ、と一人が言った。
 弟だろ、と別の者が言う。
 しかし弟がいるとは聞いているが縁壱なんて名前じゃないぞと同じ大学の男が言う。
「でも、継国は縁壱って呼んでなかったか?」
「そうだったかなぁ」
「気のせいだろ」
「ううむ。あまり覚えいない」
 男たちは言う。
 
 ただ一つ、確かなのは、継国巌勝は神隠しにあったわけでもなく、弟に監禁されているのでもないということ。
 そして『縁壱』という男と達者に暮らしているということだ。
 
 彼らは安心したなぁと口々に言った。
 
 それ以来、もう継国巌勝を思い出す者はいなくなった。