バニーボーイのいたずら
二人が結婚してから2、3年後の朝のことだった。
「縁壱、起きろ。朝はしっかり食べねば」
そう言って縁壱の肩を揺らす巌勝の声に薄らと目を開けた縁壱はぎょっとして眠気をどこかに吹き飛ばす。己に跨るようにしながら顔を覗き込む巌勝はバニーガールの格好をしていたのだ。
「……みちかつ?」
「起きたか。おはよう、縁壱」
「その格好は?」
「ん? これか?」
そう言って襟元をちょいと摘んだ巌勝はフフンと自慢げに微笑み言った。
「今日一日、地上ではこの格好をしてもてなすのだろう?」
ぱそこんのねっとにあるけいじばんとやらで教えてもらったと加える彼に、くらりと目眩がした。
際どいレオタードに真っ赤な蝶ネクタイの付いた白い襟。付け袖に黒ストッキング。尻尾と耳は彼のものである。露出が多く、扇情的な衣装。それを、恋するひとが身にまとっている。
気が遠くなるような心地でバクバクとうるさい心臓を落ち着かせるべく大きく息を吸う縁壱。
しかし「本当は網タイツの予定だったんだがな。あいにく準備ができなかったのだ。炭治郎には写真を見せて確認してもらって、問題ないとは言われたものの……」と言う巌勝に、思わず「はぁ?!」と大きな声を出してしまう。そして思わず巌勝の足を凝視し、全力で目をそらした。
「ん? なんだ。触りたいのか?」
「ち、ちが、ちが、っ、ちがう! そうじゃない!」
「ふふふ遠慮するな」
何かを勘違いした巌勝はニヤリと笑い、縁壱の手を己の太腿へと導いた。
「どうだ? 私も鍛えたからだいぶ筋肉がついただろう?」
「ひぇ」
「もっと触ってもいいのだぞ? ほら、腕も」
嬉しそうに「触ってみろ」と迫る巌勝。
しかしながら、縁壱はそれどころではないのだ。
黒ストッキング越しの巌勝の足。しっとりとしていて、大きな縁壱の手のひらにすいつくようで、石にでもなったように、接着でもされてしまったように、手を動かすことができない。
ふと、見たこともない景色が脳裏をよぎる。
愛しい誰かの乱れた襦袢から手を差し入れ、膝から内腿を撫で回す。悩まし気な吐息を漏らす誰か。筋肉ののった剣士の足。縁壱を狂わせる美しい人――――。
パチパチと瞬きをする。幻は霧散し、眼の前には巌勝がいた。
その巌勝が、まだ未発達の少年の姿の彼が、扇情的な姿で触れろと迫る。
縁壱の中の獣が囁く。
―――この仔ウサギを食らってしまえ。発情したウサギはお前をいつでも受け入れる。
「みち、かつ……」
「ひ?! 縁壱、くすぐったいぞ」
縁壱はするすると手のひらを動かす。太腿を撫で回しながら、ゆっくりと手のひらを上へとのぼらせる。くすぐったいという巌勝の言葉にゴクリと唾を飲み込み、幼い尻に指先を沈める。そしてもう片方の手では反対の尻を包み込むように揉み込みながら、ピクピクと震える尻尾の付け根を擽った。
「あ、ゃ…ひあ……」
徐々に巌勝の頬が染まっていく。は、は、という自分の荒い息。体を支えるためになのか縁壱の肩に巌勝の手がのる。目の前の彼の腹がヒクヒクと震えているのを見て、口の中に唾液が広がった。
縁壱は巌勝の足を包む薄い膜に爪を立てる。
熊の爪はピリリと膜を裂き、白い肌を露わにさせた。
「っ、縁壱! なにを…!」
声を上げる巌勝を無視して膜を破いていく。広がる白い肌と黒い膜のコントラストが扇情的だった。
覗く白い肌に触れるとビクンと巌勝が肩を震わせる。そこからストッキングと肌の僅かな隙間に手のひらを滑り込ませた。
巌勝の顔を見上げる。
彼は潤んだ瞳で縁壱を見ていた。
期待と不安の混ざった瞳。
それを見て、縁壱はニッコリと笑う。
「こんなえっちな服は、捨てちゃいましょうね?」
巌勝はただただ頷くことしかできなかった。