またの名を死
黒死牟の六つの目のいくつかは、時折何かを追うように動く。鬼舞辻無惨は黒死牟がそうしている時は決まって吐き気を催すような不快感に襲われることに気がついた。それ故に鬼の始祖は己の作った壱番の脳の中をのぞいた。
そしてその視界で見た世界に思わず顔を歪めた。
そこにいたのは幼い子どもだった。ぼさぼさの頭に茫洋とした大きなまんまるの瞳。その耳には太陽の耳飾り。
その幼子は天敵たる継国縁壱に違いない。
咄嗟に鬼舞辻無惨は黒死牟の首を撥ねようとした。しかし、寸の間考え、脳味噌をほんの少しだけ血を与えた。すると黒死牟はきょとんとした顔で――六つの目で鬼舞辻無惨を見る。そしてその後、鬼舞辻無惨の意図を正しく汲み取った黒死牟は顔を歪ませる。鬼舞辻無惨の脳に黒死牟の羞恥が流れ込んだ。
それに満足した鬼舞辻無惨は壱番の鬼をおいて立ち去った。
黒死牟は自己矛盾を抱える。
勝ち続けることを己に課した上弦の壱。その通り、己が作り出した壱番の鬼。力への強い執着は疑いようもない。その一方で彼は希死念慮を抱えていた。鬼舞辻無惨には馬鹿馬鹿しくて一欠片も理解できないそれ。その希死念慮を抱えながらも、勝ち続けると、決して死なぬと、強さのみを求め続ける自己矛盾。
その希死念慮とやらを消しさってやろうと鬼舞辻無惨は考えた。しかしながら彼はそれを野放しにすることにした。何故ならばその希死念慮から貪欲な強さへの渇望が産まれていると知ったからだ。
呵呵と鬼舞辻無惨は嗤う。
黒死牟の希死念慮は弟の――継国縁壱の姿をしていた。