「本当は知っていた。兄上が鬼を憎んでいないことも、一方で俺を見る時の目が憎しみのようなものを湛えていることも。死に直面して苦悩していたことも、どうしようもなく追い詰められていたことも。
しかし、俺は傲慢だった。兄上が俺を憎むその理由が俺にはとんと判らなかったが、同時に兄上が俺を深く深く愛していたことに慢心していたのだ。どれほど兄上が俺を憎んでいても俺は兄上に捨てられることなどないと……俺を手放さないと、そう信じて疑っていなかったのだ。
そして――そして、本当に罪深いのは、俺はまだ、兄上が俺を捨てていないのではないか、俺の腕の中に兄上が帰ってきてくださるのではないかと、どこかで信じてしまっていることだ。兄上はまだ俺を愛しているはずだと信じている。それどころか、兄上への想いは深くなるばかりで――この腕の中からもう二度と逃がしはしないと、独占欲すらも抱いている。
だから俺は追放されるべきなんだ。
煉獄、君は俺を庇ってくれた。それは感謝している。しかし、俺は鬼狩りにいてはいけない。
俺は兄上への愛で君たちを死においやるかもしれないのだ。兄上が本当に無惨の手先になってしまったとして、俺を騙そうとしたとして、きっと俺は喜んで兄上に騙されてしまう。恐るべきことに、俺は心の何処かでそれを望んでいるのだから。
俺は兄上を探そう。
兄上を探して、斬る。兄上を斬り、兄上との想い出もともり葬り去る。でなければ、兄上に殺されてしまいたい。それが俺の望みだ。
煉獄、君は優しい。しかし同情しなくて良いんだ。こんな俺を赦さなくて良い。
けれど、せめて君たちの幸せを願うこと、それだけは許してほしい。
今までありがとう」
そう言って縁壱は鬼狩りを去った。残された煉獄は、きっと縁壱は巌勝を斬ることはできないだろうと確信した。なぜなら縁壱は深く深く、彼自身が思っているよりももっと深く巌勝を愛しているからだ。
神から与えられしその剣技は、到底おのれには届かぬ領域であった。それにもかかわらずその力は兄への愛の前には無力なのだと知り、煉獄は慟哭した。
縁壱がひどく憎らしかった。