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縁壱は「兄上と俺は相性が良い」と言う。巌勝はそうは思わないが、縁壱が言うのだからそうなのだろうと思っている。
巌勝はdomで縁壱はsubだった。『世話焼きのdom』と『尽くすsub』という性質の双子。お互いにダイナミクス欲求が希薄であるから巌勝はほとんどそれを意識したことがない。
しかし縁壱の方はそうは思っていなかったのだ。
それは高校を卒業した日のことだった。
「パートナー契約を結びませんか」
熱っぽく瞳を潤ませてそう言った弟は、今にして思えば断られるなど微塵も思っていなかったのだろう。
一方、そもそもパートナーを作る予定も必要もないと思っていた巌勝にとって、それはまさに青天の霹靂だった。
驚いた巌勝が真意を問いただすと「兄上と俺は相性が良いのです」と言った。
曰く、縁壱は巌勝にしかダイナミクス欲求を抱かない、巌勝だけが欲求を満たせるのだと言う。
巌勝は絶句した。彼のdomとして抱く『支配欲』は『世話を焼く』という形で現れていた。それは誰が対象であっても構わないものだ。
巌勝には縁壱の言うことがさっぱり理解できなかった。
しかし、弟に「首輪は兄上が選んでくださいね」と言われてしまうと是と返してしまう。頼られると応えなければと思ってしまうそれはdomである故か、兄である故か。
それからあれよあれよと言う間にパートナー契約を結んだ。
なぜ弟に逆らえなかったのだろう。実は弟はdomなのではないだろうか。
砂糖のように甘ったるい顔で跪く縁壱のことは見ないふりをして、そんな現実逃避をする。
だってsubに支配されるdomなど聞いたことがない。
――そうだ。私は縁壱に支配されている。
世界がゆらぎ、足元で跪く弟に支えられているような錯覚に陥る。
「この前、兄上に似合いのネックレスを見つけました。一緒に買いに行きましょう」
縁壱の声がやけにはっきり聞こえた。
――このネックレスは私の首輪に違いない。
本能が「嫌だ、私を支配するな」と叫ぶ。
それでも巌勝は「今度の日曜日。一緒に行こう」と口にしてしまう。
「嬉しいです」
「そうか」
私も、お前が嬉しそうで嬉しいよ。こみ上げる吐き気を抑えて言った。
「兄上と俺は相性が良いですね」と縁壱は言う。
巌勝はそうは思わないが、縁壱がそう言うのなら「そうだな」と言う他ないのだ。