和服の話
確か中学校の修学旅行の時のことだ。
五人組の班行動の時に、縁壱がわがままを言ったから巌勝と縁壱のいる二つの班は勝手に合流して二手に別れて行動した。
あの時は無意味にルールを破ることが魅力的だったのだ。
最初からあの二人を同じ班にしなかったのが悪いよな、なんて同級生と話したのを覚えている。
そう。
縁壱と巌勝はとても仲の良い双子だった。少し異常なくらいに。
生まれつき額に痣があって、動物に好かれやすく、スポーツが驚くほどできる方が弟の縁壱。
そんな縁壱に対してお兄ちゃんぶっていて、生真面目な方が兄の巌勝。
二人は「ちょっと変じゃない?」「でも継国だしな」と言われる程度には仲の良い双子だった。
縁壱は巌勝にべったりで「置いていかないで」が口癖だった。それに対して巌勝は「お前を置いていったりなんか、するわけないだろう」と笑っていた。
「絶対に?」
「置いていったこと、あったか?」
「………ううん」
そうだろ、と巌勝は縁壱の額を指で弾き、縁壱は「痛い」と言いながら嬉しそうにする。そんな光景が日常茶飯事だった。
閑話休題。
その時の俺は継国兄弟と同じ班に再編成されていた。
いかに班を再編成したことをバレずに観光地を回るかを気にしていた巌勝の隣で縁壱が「あっち行こう」「あれ食べよう」「写真撮ろう」と観光を満喫していた。誰かがデートかよ、と茶化していた。
その日の終わりに着付け体験の看板が皆の目に入る。ちょっとコスプレに近いやつだ。
「俺、新選組やりたい」
と誰かが言って、やいのやいのと店に入った。
その店で
「巌勝、慣れてんのな」
と同級生が言った。
皆が着慣れない服に苦戦する中、巌勝はまるで着慣れた服のようにあっという間に着替えてしまった。
「前世は侍だったりして」
とふざけるやつがいて、巌勝はにやりと笑いレプリカの刀を同級生に向けてポーズをとる。それがやけに“それっぽ”くて、ますますおかしくてドッと笑いが起こった。
縁壱は少しも笑っていなかった。
店を出る際に
「兄上。よくお似合いでしたよ」
そう時代劇風にふざけようとして、蚊の鳴くような声になってしまった縁壱の顔を俺は見ることはできなかった。
代わりに
「縁壱も似合ってるぞ」
と言った。すると、縁壱はふっと笑い「炭吉も似合ってる」と言った。
照れるなあ!と大げさに言うと縁壱は今度こそ微笑んだ。
カラン、と俺の耳についた太陽の柄の耳飾りが音を立てた。