NOVEL 小ネタ(〜1000)

Space and the Seabed


 縁壱は宇宙飛行士になった。そして巌勝が夢見ていた宇宙に行った。  
 ふわふわと浮きながら、無重力だからって何処にでも行けるわけじゃないんですよ、と兄に毒づく。

 外を見ると闇が広がっていた。海底みたいだと思った。  
 あれはヒトデ、あれはイソギンチャク、あれはクラゲ、あれは………。

 指を指しながら縁壱が遊んでいると、向こうの方から彗星がひゅーんと流れた。  
 目を凝らすと、彗星の正体は巌勝だった。縁壱に手を振りながらまっすぐこちらにやってくる。  
 そして、窓に手をついて「本当にお前、ばかだなあ」と笑った。

 巌勝は随分と伸びた髪の毛を頭の後ろで一括にしていた。ゆらゆらと揺らめく髪が尾びれのようで、きっと彼は深海魚にでもなってしまったのだと思う。  
 深海魚になって、海の底――宇宙に辿り着いたのだ。

 縁壱は窓越しに巌勝の手に自分の手を合わせて破顔した。  
「好きだから会いに来ました」

 ざざ……ざざ……と波の音が聞こえた。  
 海底の宇宙に二人きり。

 縁壱は幸せだった。