わるい子は罰を受ける
兄に記憶は無いようだ。だが、きっと魂にこびりついているのだと思う。
兄は俺に対して正体不明の憎しみを抱いている。同時に愛も。その大きな感情は幼い子どもに抱えられるものではないらしく、俺を見てはよく泣いていた。
「兄さん、泣かないで」
と言っても
「どっか行けよ」
とわんわん泣く。しかし、俺が本当にどこかに行こうとすると
「ごめん。行かないでくれ」
と、やっぱりわんわん泣く。
小学校に入学してからはそんなことはめっきりなくなったが、やはり抱えきれない感情を持て余しているようだった。高校にあがると家に帰ると俺の顔を見ることになるのが嫌で、兄は夜の街をほっつき歩く。俺はそんな兄が心配だった。
だから狡いと分かっていながら兄にキスをした。
「好きだよ。愛している」
そう言えば兄は顔を赤らめ、それから青く、そして真っ白にさせた。
可哀想な兄上!
俺は兄を抱きしめてもう一度キスをした。兄はしくしく泣きながら、もう一度キスをしてほしいと俺に強請る。ああ、本当に可哀想なのに、俺はこんな状況を『都合がいい』と思ってしまう。
兄は言う。
「雷を見ていると、俺に向かって落ちてくるような気がする」
どうして、と問うと、ぎゅうと俺の手を握り言うのだ。
「なぜだか分からないけど――隠していた悪事がバレそうになったときみたいな……そんな気分になる」
俺きっと前世で悪いことしちゃったんだな、と冗談めかす兄を俺は抱きしめる。
「兄さんに雷が落ちるなら俺も一緒に」
だって俺も悪い子だから。そう思ったが、兄さんには『良い弟』と思っていて欲しかったので「兄さんとは何でも一緒がいいから」とぶりっ子してみる。
「……あざとい」
バレてしまったらしく、兄さんは俺の額をパシンと叩いた。ちょっと痛かった
「酷いなあ」
そう呟くとようやく兄さんは笑ってくれた。
迷信なんてくそくらえだ。雷なんて兄上の上に落とさせない。
俺はゴロゴロとうるさい雷雲をにらみつけ、べっと舌を出した。