産屋敷くいなは旅に出た。
齢十五の冬の日のことだ。ほぼ家出と言っても過言ではない。
和紙に毛筆で『旅に出ます』と書き記し、着物を脱ぎ捨た。
代わりに赤いミディアム丈のワンピースを身に纏い、帽子を被って姿見の前でポーズを取る。そこには興奮気味に頬を赤く染めるモダンガールがいた。
「ごめんね。そして、さよなら……!」
この日のために買った靴を履いてカツンカツンと足音を鳴らしてみると、心が弾んだ。
自由とプライドを小脇に抱え、支える腕も要らない。一人で立てる。
星が瞬く夜、足音鳴らし産屋敷くいなは世界に飛び出した。