キス・ミー・プリーズ
キスをする時、巌勝は目を閉じる。
暗闇の中で縁壱の身体をあちこち触れて輪郭を瞼の裏に作り出すのだ。そして最後に後頭部をおさえ、より深いキスをねだる。
縁壱はといえば、巌勝の求めにこたえ、舌を絡ませ合い、歯列をなぞり、唾液を注ぎ、耳を塞ぐ。くちゅくちゅという水音や息継ぎのたびに漏れ出る巌勝の小さなあえぎ声にくらくらとする。最後にぢゅうと舌を吸い、唇をほんの少し離せば名残惜しそうに巌勝の舌が縁壱の唇を追った。
二人を繋ぐ銀の糸が弧を描くように垂れぷつんと切れるのを見て、縁壱は「あ」と声を漏らす。
睫毛と睫毛が触れ合いそうなほどの距離だ。
興奮と欲をにじませた互いの吐息が混ざり合う。
「兄上は、キスをするときはとても素直だ」
縁壱は口の端をちょっと上げて、目の奥に嬉しさを滲ませる。そして巌勝の様子をうかがってフフンと自慢げにしていた。
巌勝は「ふん」とそっぽを向いて、それから片眉をひょいと上げニヤリと笑う。
「お前こそ、キスをするときはとても素直で、がっついてきて、必死で、可愛いよなぁ」
「可愛いのは兄上でしょう? 音を上げておれにすがってくるのはいつだって貴方だということを忘れたとは言わせない」
「……ふん。初めてキスをしたときに『キスはしたいけれどおれと兄上の鼻が当たってしまってキスができません』などと言っていた頃のお前の方が、よほど可愛らしかったのに」
「ああ……あの時『兄さんがキスを教えてやろう』と迫ってきた貴方はとてもいやらしかったですね。そういうのがお好みですか?」
「別に。お前なら何でもいい」
「嬉しいですが、張り合いもない」
二人は暫し見つめ合う。それからクスクスと笑い、そのまま、どちらからともなく再び唇を合わせるのだった。